我々が取り組む深層学習による皮膚腫瘍診断補助システム
- 人工知能(AI)と皮膚の相性はとても良い。
- “美容×AI”は今後ますます発展していくが、その活躍には工夫が必要である。
- 弊社は、皮膚腫瘍の良悪性の識別率が94.5%のプログラムを作成した。
近年、情報技術の進歩と各種情報の電子化の浸透により、ビッグデータの活用が本格化しており、特に集積されたビッグデータを人工知能によって解析することは各種分野で試みられています。画像認識の分野においては、AlexNetが2012年のImageNet large scale visual recognition challenge(ILSVRC)で優勝して以降、深層学習による機械学習が飛躍的に発展し、2015年のILSVRCの結果は人間の認知機能を上回るものでした。医療における画像認識においては、特に脳・心臓領域のCT・MRI画像、消化器領域の内視鏡画像、病理画像などの分野における研究報告が多いです。一方で、なかなか社会実装がなされていないとういう現実があります。その理由として、1)プログラムの中身がブラックボックスである、2)責任の所在が曖昧である、3)高いAccuracy(正確性)が求められる等、様々な原因が挙げられます。
さて、美容と大変関係の深い“皮膚”とAIの相性はどうでしょうか。古くから皮膚は“内臓と心の鏡”と言われ内科的な疾患との関連性が報告され、近年では“健康美の象徴”としても注目されています。そして、皮膚は全身を覆う臓器である為、その治療は整容性における大衆的な満足度が重要な指標です。近年注目されている深層学習は、人間の視覚野の機能を模しており、視診や整容性を重視する皮膚の分野における相性はかなり良いと言えます。実際、2018年には、国立大学法人筑波大学医学医療系の藤本学教授、藤澤康弘准教授と京セラコミュニケーションシステム株式会社の共同研究グループが皮膚腫瘍の臨床写真を用いて、90%以上という非常に高い診断精度を有する皮膚腫瘍人工知能診断補助システムを開発しています。
私は、東京女子医科大学腎臓外科の岩藤医師が開催したAI研究会への参加をきっかけに、機械学習の基礎を学習しました。その後、日本ディープラーニング協会(JDLA)の認定プログラムを受講し、2018年10月にJDLA 認定E資格を取得しました。また、2019年1月には日本メディカルAI学会公認のメディカルAI専門コースを修了し、2019年3月から、AIによる皮膚腫瘍の画像分析モデルの作成に取り掛かかりました。主に新東京病院形成外科・美容外科における2015年4月から2017年3月までの臨床写真をデータセットとして深層学習を行いました。訓練データと検証データの割合は7:3にし、学習モデルには120万枚の一般的な物体画像により事前学習されているGoogLeNetを用いました。その結果、検証データに対する皮膚腫瘍の良悪性の識別率は94.5%に達しました。現在は、ジャンゴ(Django)というWebアプリケーションフレームワークでweb上のアプリケーションを試験的に作成しています。
AIと皮膚の相性は良いです。すなわち、整容性が大きな指標となる美容との相性も良いと言えます。今後ますます、“AI×美容”は発展していきますが、整容性の評価は主観的要素が多いため、AIの活用の仕方には工夫が必要でしょう。