- 美容クリニックでは患者に費用対効果を理解してもらう為の情報を提示する必要があり、その最も重要な点がメニューの価格である。
- 美容医療における価格設定の妥当性は患者自身が判断する必要もある。
- 初めて行く美容クリニックの場合は、相談や簡単な施術のみを体験し、担当医やクリニックとの相性を見極めてから本格的な治療に入るのが良い。
この問いに関して、医療資源の多様性から画一的で明確な答えはないと思います。しかし、クリニックでは、決して安くない美容メニューに対して、患者さんと現場の医療従事者(医師、看護師、カウンセラーなど)へ根拠のある説明が可能な価格設定をする必要があります。その根拠の軸となる要素(医療技術、医療資源、原価率、利益率など)に何を据えるかで、各医療機関の価格の設定差が生じてきます。
現在、日本の保険診療は世界に誇る国民皆保険制度で成り立っています。日本は1955年頃まで、農業や自営業者、零細企業従業員を中心に国民の約3分の1に当たる約3000万人が無保険者で、社会問題となっていました。しかし、1958年に国民健康保険法が制定され、61年に全国の市町村で国民健康保険事業が始まり、「誰でも」「どこでも」「いつでも」保険医療を受けられる体制が確立しました。すなわち、国民の誰もが、保険証1枚でどの医療機関にもかかることができ、その結果、日本は世界トップクラスの長寿国となり、乳児死亡率などの健康指標も首位を占めています。
一方で、海外に目をむけてみると、先進国の中でも民間保険中心の制度もありますし、無保険の国民を多く抱える国も存在します。その代表例が米国です。元来、米国は“医療費が高く、貧乏人は満足な治療が受けられないのが当たり前”という保険制度でした。そこでオバマケアが発案されました。しかし、オバマケアが目指すものは、日本のような「公的保険」ではなく、従来の個人が民間の健康保険を購入する枠組みの中で、保険会社に価格が安く購入しやすい保険を提供することでした。そして、現在の米国では患者のネットワークが発展し、患者が病院、医師、治療法を吟味・選択し、対価を支払うという文化や思考が日本より遥かに根付いています。
日本の美容医療のしくみはアメリカの医療文化に似ています。ホームページ、SNS、ブログ、口コミなどを通じて患者本人が病院やクリニックを選択し、費用対効果を吟味し、メニューや病院、医師を決定しています。そして、美容のクリニックでは患者に費用対効果を理解してもらう為の情報を提示する必要があり、最も重要な点がメニューの価格です。すなわち、美容医療における価格設定の妥当性は患者サイドが判断する事となる為、主観にも左右されるのです。
医療の世界には、“病気を診ずして 病人を診よ”という高木兼寛先生の教えがあります。これは、病んでいる「臓器」のみを診るのではなく、病に苦しむ人に向き合い、その人そのものを診ることの大切さを表しています。美容医療も一緒だと思います。美容の外来では、“シミやタルミを取りたい”、“鼻を高くしたい”、“痩せたい”など、様々な訴えがありますが、それらを短絡的に治療するのではなく、そこに至る患者の背景を汲み、患者の本当の希望を発見するのが医師の役目だと思います。患者にとっては、美容クリニックに受診するだけでも勇気のいる事です。初めて行く美容クリニックの場合は、相談や簡単な施術のみを体験し、担当医やクリニックとの相性を見極めてから本格的な治療に入るのが良いと思います。