- 脳には隠れた部分を無意識に補完する機能がある。
- 美しい顔と言われる顔立ちには、黄金比が関係している。
- 我々に植え付けられた黄金比の知識を用いて、脳が勝手に“視覚から遮断されたマスクの下の美しい素顔”をつくる。
私は形成外科医ですので主な仕事場は手術室でした。手術室では、全員が同じサージカルマスク、帽子、手術着を装着しており、他人を視覚的に認識する情報はわずかに露出した目周りと体型だけです。ですので、忘年会や新年会で初めてその人の素顔をみることはよくありました。そんな中、男女を問わずよく耳にしたのは、“手術室で想像していた印象と違う”という言葉でした。実際、手術室での想像とはちょっと違和感があるお顔であることが多いのが事実です。なぜ、“マスク美人・美男”と呼ばれる現象が生まれるのでしょうか?私は、全体像を補完する脳の力と顔面の黄金比が原因と考えています。
そもそも、私たちが目にする風景は無数の物体が重なり合って構成されています。よって、多くの場合、物体の一部は前面の物体によって遮蔽されていて、その全体像が見ることはできません。それにもかかわらず、私たちはいとも簡単に隠れた部分を補完し、個々の物体の全体像を即座に把握することができます。それは、脳の視覚野において、遮蔽物の裏にあたかもそこに物体が見えているかのように、脳が活動するためです。また、この活動は事前に情報を得ている場合の方が、より活発になると報告されています。
私達はメディアなどにより日常的に美男美女のイメージを与えられ続けています。また、普段から化粧をすることの多い女性は、無意識のうちに“こうありたい”という顔面の理想像を想像しています。美しい顔と言われる顔立ちには、黄金比が関係しています。黄金比とは、視覚的に顔面の各パーツのバランスが取れており、誰が見ても美しいと感じる比率のことです。古代エジプトのピラミッドやミロのビーナスなども黄金比が取り入れられています。日本人では、観月ありささんや新垣結依さんの顔が代表的です。主に、顔面全体のバランス、顔のパーツの位置や形、左右の対象性が重要な指標となります。そして、我々はマスク顔から見えている目周りという限られた情報からそのパーツに適した黄金比を用いた全体像の無意識に想像しているのです。
すなわち、あらかじめ我々に植え付けられた黄金比の知識により、脳が勝手に“視覚から遮断されたマスクの下”を補完するのです。そのため、“マスク美人・美男”が生まれるのです。