近年、「男性の美容」に対する注目が高まっており、各メーカーにより男性向けコスメ市場が開拓されています。2018年2月にはシャネルからもメンズコスメ『BOY DE CHANEL』が誕生し、話題になりました。また、消費者としての男性の意識も年々高まっており、2001 年に富裕層向けの男性用雑誌『LEON』が創刊されて以降、今では、男性のファッションや美容をテーマとする多くの雑誌があります。また、実施に美容医療を専門とするクリニックの患者の男性の割合は微増しており、最近の男性は、より良質で効果的な美容・スキンケアへの意識が高まっていると言えます。そんな中、メンズコスメの商品が次々とリリースされ、“メンズのためのスキンケア”と呼ばれる記事をよく目にするようになりました。一方で、これまでの美容・健康業界と同様に、情報が錯綜し、正しい情報が分からず、消費者が混乱する傾向にあります。
今回は、我々が医療の現場で実際に感じていることも踏まえて、男性の美容を真面目に語ってみようと思います。まず、男性にとってより適切で安全なエイジング・ケアを行うには、以下の流れを理解することが必要と考えています。
- 男性と女性の肌の違いと特徴
- 男性の悩みやニーズに応えるための適切な解決策
- 男性美容に対する意識と社会の変化
- 男性の美容がもたらす心理的効果
そもそも、男性の肌は女性と違うのか?
(1) 肌を評価するための必要項目は?
肌を評価するための現代の評価手法は1990年ごろから用いられてきました。コスメ分野での皮膚の研究は、女性の肌を対象として行われることが多く、男性肌に関する本質的な知見は得られていません。一般的には、男性の肌は女性と比べて皮脂量が多く、乾燥しやすいなどと言われていますが、本当でしょうか。肌のエイジングや性差を非侵襲的(身体に傷を付けずに)に評価が可能な項目として、以下のような項目が挙げられます。
- 肌の水分量
- 肌からの蒸散量(経表皮水分蒸散量)
- 皮脂の分泌量
- 皮膚の厚み
- 皮膚のp H
- 皮膚表面の微小循環(毛細血管の密度など)
- 皮膚の色調
- 皮膚の弾力
- 皮膚の摩擦力
- 顔面の形状(たるみなど)
- 皮膚のシワ
上記の項目に関する男女差を比較した英語論文を、PubMed(世界約70カ国、約5,000誌以上の文献を検索できる医学・生物学文献データベース)とGoogle Scholar(Google 社が提供する学術論文検索用エンジン)で検索すると、約1,070本の論文がヒットし、そのうち、質の高い英語論文は約57本になります。
そして、これらを読み解くと、面白い事実がわかってきました。皮膚に関するこれらの基礎的な事実は、男性の美容に関して入り口に過ぎませんが、最も大切な点だと考えています。ここを見誤ると、今の美容・健康業界で多く見られているように、情緒的な判断のみで、サービスや商品を選択するようになってしまいます。
今後、この場を借りて、なるべくわかりやすく、男性美容に関して伝えていけたらと思います。