「ここで油断するとオーバーシュートする」
これはウソです。しかも、二重のウソがあります。まず「オーバーシュート」という言葉から考えてみましょう。この聞き慣れない言葉はどういう意味でしょうか。調べてみると集団免疫に関係する言葉でした。一般的には株価などが本来の価格よりも「行きすぎる(上がりすぎる)」という意味で使われる言葉です。これが統計学で使われると、集団免疫を形成するために必要な感染者数以上に国民が感染してしまった場合、その不必要に感染した感染者数のことをオーバーシュートと言います。集団感染とは、たとえば国民の5割の人が既にある感染症に感染して免疫を獲得するか、ワクチンによって免疫を獲得すると、その人達が人間の盾のようになって、感染爆発が起きなくなることです。つまり、オーバーシュートとは、感染拡大があまりにも急速に起こってしまうと、集団免疫獲得に必要な数以上の人間がコロナに感染してしまうことです。(次図参照)
ところが、少なくとも報道では、この言葉を「感染爆発」という意味で使っていたことは周知の事実です。うがった見方をすれば、この言葉を使った専門家は心の中では集団免疫獲得を狙って使ったとしても、そのことを口外するといろいろと批判されるため、あえて”集団免疫”という言葉を使わず、オーバーシュートという言葉でそれとなく匂わせたのかも知れません。しかし、いずれにしても、「オーバーシュート」という言葉は「感染爆発」とは別の意味の言葉です。(どうしても英語で言いたいのなら、感染爆発はexplosion of infectionやexplosive spreadとかパンデミックというべきです)
もう一つのウソは、日本において集団免疫を獲得には、一説によると全人口の6割に当たる7600万人程度の人がコロナに免疫を持つ必要があります(集団免疫獲得には何割の国民の感染が必要かは諸説あります)。つまり、オーバーシュートが起きるには、数千万人がコロナに一度感染する必要があります。しかし、そのようなことは、今よりも多少感染者が増えたとしても、現実にはあり得ないのは明らかです。
ただ、オーバーシュートという聞き慣れない言葉で国民を”脅した”ことの感染対策上の効果は絶大だったと思います。