男性の美容を真面目に考える⑦
〜皮膚の厚みに関する男女の違い〜

■皮膚とは

人間の身体全体を覆う皮膚は、皮下組織を含むと体重の約16%を占め、人体で最大の重量の臓器です。成人での皮膚の面積は約 1.6 m2であり、①水分の喪失や透過を防ぐ、②体温を調節する、③微生物や物理化学的な刺激から生体を守る、④感覚器としての役割を担っています。

■皮膚の構造(表皮、真皮、皮下脂肪組織)

①表皮に関して

皮膚は主に、表皮、真皮、皮下脂肪組織の3層からなっています。表皮の暑さは平均約0.2mmであり、構成する細胞の95%は角化細胞(ケラチノサイト)です。そして、生命の保持には表皮の最外層である「角質」が最も重要な役割を果たしています。角質はラップフィルムのように、生体を強力に被覆しており、これを完全に失うと人間は水分の喪失により24時間も生存できません。また、シミの原因となるメラノサイト(色素細胞)は表皮の最深部にある基底層に存在し、やや真皮側にはみ出しています。

②真皮に関して

真皮は表皮の下部に存在し、その厚さは表皮の約15~40倍(平均3~8mm)です。解剖学的には、乳頭層、乳頭下層、網状層の3層構造です。真皮を構成する主な成分は膠原繊維(コラーゲン)であり、真皮の乾燥重量の70%を占めます。膠原繊維(コラーゲン)は極めて強靭な繊維であり、皮膚の力学的な強度を保つ支持組織として重要です。

③皮下脂肪組織に関して

皮下脂肪組織は真皮の下層で、真皮と筋膜の間に挟まれた部分であり、大部分は脂肪細胞で構成されています。中性脂肪の貯蔵場所としての役割のほか、物理的外力に対するクッションの役目や体温喪失の遮断、熱産生に伴う保温機能にも重要な役割を担っています。皮下脂肪組織の厚さは身体の部位や年齢によって異なります。頬、乳房、臀部、大腿、手掌、足底などでは特に厚く、眼瞼、鼻背、口唇、小陰唇では薄く、包皮では欠如しています。また、新生児や思春期に皮下脂肪組織は発達増大する傾向にあり、特に胎児や新生児の背部には褐色脂肪組織が存在し、活発な熱産生を行っています。

■皮膚の厚みに関する男女差を示唆した臨床研究

一般的に、男性の皮膚の方が厚いというイメージを持っていると思いますが、実際にはどうなのでしょうか。前腕の皮膚を用いた臨床研究において、男女問わず、加齢と共に皮膚コラーゲン量、真皮の厚み、コラーゲンの密度が減少することが報告されています。また、減少の傾向として、男性の皮膚の厚さは20歳を過ぎてから年齢と共に直線的に減少する一方で、女性の皮膚は約50歳までは一定であり、その後、皮膚が薄くなっていくと説明しています(下図)。

※Sam Shuster et al, British Journal of Dermatology(1975)93から引用

加齢と共に皮膚が薄くなる主な原因は、コラーゲンが減少する為と考えられ、コラーゲンの主成分であるヒドロキシプロリンにより評価しています。その結果、ヒドロキシプロリンと皮膚の厚さには正の相関関係がありました。また、全年齢層において、男性の方が女性に比べて厚いと報告されています(Shuster,1975)。

その他、Bailey(2012)、Sandby-Moller(2003)、Mayrovits(2010,2012)、Firooz(2017)らも、様々な部位(前額部、頬部、顎、頸部、臍下の腹部、前腕背側、掌、足背、足底)を対象とした研究において、部分による違いはあるものの、男性の方が女性よりも皮膚が厚い傾向にあるとしています。

■皮膚の厚さに男女差がなかったという臨床研究

一方で、Ya-Xianらは、301人の様々な年齢層と部位を対象とした研究で、角質層の細胞数を評価したところ、性別と明確な相関関係は認めなかったと報告しています(1999)。その研究では、男性の頬と背中の皮膚の角質層の細胞は年齢の増加と共に、わずかに増加していたと報告しています。さらに、Mogensenらは、表皮の厚さに関しては、年齢やスキンタイプによる有意な差はないと報告しています(2008)。加えて、Gambichlerらは、83人の男女を対象とし、光干渉断層撮影を利用して、皮膚の厚み評価したところ、前額部以外の部位では男女で有意差は認めなかったと報告しています(2006)。

■女性ホルモンと皮膚の厚さ

Levequeらは、男女共に45歳から皮膚の厚さが減少し始め、皮膚の厚さの減少とヒドロキシルプロリンの喪失は、閉経に伴うホルモンの不均衡の結果であると示唆しています(1984)。Brincatらは、エストラジオールとテストステロンで2〜10年間治療された女性の皮膚と、同年齢で未治療の閉経後の女性の皮膚を比較しました。その結果、治療していた群(女性ホルモンを投与していた群)の方が、未治療の群よりもヒドロキシルプロリンの量が約50%多かったという結果になりました(1983)。さらに、Turらは、卵巣摘出術は皮膚の薄化に関連している一方で、エストロゲン療法(ホルモン療法)は皮膚を厚くすると報告しています(1997)。また、Eisenbeissらは、20 MHzの体表超音波検査を行い、閉経前の女性の皮膚の厚さと女性ホルモンのレベルの間に正の相関があることを示し、これらは女性ホルモンによって引き起こされた皮膚の保水量が原因であると説明しています(1998)。

■まとめ

  • 皮膚は体重の約16%を占め、人体で最大の重量の臓器であり、①水分の喪失や透過を防ぐ、②体温を調節する、③微生物や物理化学的な刺激から生体を守る、④感覚器としての役割を担っている。
  • 皮膚は、表皮、真皮、皮下脂肪組織の3層構造であり、人間の生命保持の為には表皮が最も重要である。
  • 皮膚の厚さは、女性に比べて男性の方が厚いという報告が多いが、男女差を認めない報告も散見される。
  • 女性の皮膚の厚さは女性ホルモンによる影響が大きく、閉経後は皮膚が菲薄化する傾向にある。その為、男性の皮膚の厚さは20歳を過ぎてから年齢と共に直線的に減少する一方で、女性の皮膚は中年(約50歳)までは一定であり、その後、皮膚が薄くなっていく。

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