■健康な皮膚とpH
正確には、皮膚のpHは肌の表面にある皮脂膜のpHを指しています。皮脂膜は脂肪酸と汗の混ざったものなので、脂肪酸の酸性により、皮脂膜のpHは酸性になります。その為、皮膚のpHは4.5〜6.0の弱酸性を保っています。すなわち、皮脂(脂肪酸)の分泌が少ない赤ちゃんや高齢者は、皮膚のpHが高くなり、中性に近づきます。
また、脂っぽい肌(皮脂が過剰な肌)は、酸性側(pH4.5)に近づき、乾燥肌(皮脂の分泌が乏しい肌)はアルカリ側(pH6.0)に近づきます。
さらに、皮膚は季節や気温、時間帯によっても変動します。例えば、気温が高くなると酸性に、低くなると中性に傾きます。また、夜間になると中性に傾く傾向にあります。
■美肌菌と皮膚のpHの関係
私達の周りにいる病原菌のほとんどは、酸性が苦手で、中性の環境を好みます。その為、外環境からのバリア機能を担う皮膚は、弱酸性に保たれている必要があります。皮脂や汗の分泌が乏しい赤ちゃんは、とびひ(伝染性膿痂疹)やおむつかぶれなどのトラブルが多く、感染性の皮膚病にかかりやすいです。
美肌菌と呼ばれる皮膚の常在菌(主に表皮ブドウ球菌)は皮脂や汗を食べて、脂肪酸や有機酸などの酸性物質を分泌することで、皮脂膜を弱酸性に保つ働きをしています。また、ニキビで悪者にされやすいアクネ菌も脂肪酸やプロピオン酸などの有機酸を分泌しており、肌を弱酸性に保つことに貢献しています。さらに、このような酸は、皮膚の悪玉菌として名高い黄色ブドウ球菌の増殖を抑制してくれます。
■洗顔とpH
健康な肌は、アルカリ性である石鹸(pH9~11)を使用して一時的に肌のpHがアルカリに傾いても、数時間〜8時間で弱酸性に戻す働きがあります。しかし、クレンジング でメイクを落としてから、もう一度別の洗顔料で顔を洗うという“ダブル洗顔”をした場合、洗顔料に含まれる界面活性剤により美肌菌や皮膚の角質に大きなダメージを与えることになります。その為、皮膚が弱酸性を保つことができなくなり、結果的に乾燥肌や敏感肌などの肌トラブルを引き起こします。
■肌のpHに関する男女差
上述した通り、肌表面(皮脂膜)のpHは、健康的で美しい肌を維持する為には重要な要素です。Zlotogorski(1978年)やWilhelm(1991年)の報告では、肌のpHに男女差はないと報告しましたが、2012年のBaileyらの報告では、男性の方が女性に比べて皮膚のpHが低い(酸性が強い)と報告しています。また、部位別でみると、皮膚のpHは男女ともに頬部(ホホ)で最も高く(酸性が弱い)、男性では手、女性では額のpHが最も低かったと報告されています。さらに、額などのごく少数部位を除いて、女性の皮膚のpHは常に5.0以上でした。そして、男性では年齢とともにpHが上昇すると報告しています(Luebberding, 2013)。それは、加齢に伴い、皮脂(脂肪酸)が減少していくためと考えられます。
また、性別や性ホルモンが、皮膚のpHにほとんど影響を与えないとの報告も認めます(Burry, 2001, Fluhr, 2004, Yosipovitch, 1993)。一方で、2003年に、ParraとPayeらは、スキンケアが原因で、皮膚pHが男女間でわずかに差があると報告しています。さらに、女性の場合、出産後、最初の1週間で皮膚pHの急激に低下し、かつ、その後の3週間でさらに緩徐に低下します。一方で、乳児を対象とした研究では、性別の違いによる皮膚のpHの違いは認めませんでした(Harpin and Rutter, 1983; Hoeger and Enzmann, 2002)。
■まとめ
- 肌のpHは4.5〜6.0であり、赤ちゃんや高齢者では中性に近づく。
- 健康で美しい肌のためには、肌を弱酸性に保つことが必要である。
- 肌のpHの男女差は、報告により異なるが、一般的には男性の方が女性に比べて低い(酸性が強い)傾向にある。
- 特に男性の方が、年齢と共にpHが低下する傾向が強く、女性はホルモンの影響を受けやすい。
- 出産後に、肌のpHが低下する(酸性が強くなる)。