■高気圧酸素療法とは
高気圧酸素療法とは、キズの回復をサポートする補助療法の中でも、特に有効な治療法です。アスリートなどが使用する酸素カプセルより高濃度の酸素で、かつ、医学的エビデンスに基づいて治療します。
大気圧よりも高気圧環境下で高濃度酸素を吸入することにより、血行障害に陥った組織に大量の溶解型酸素を供給し、虚血性病変の酸欠状態を改善します。そのため、低酸素状態や血管の破綻により、治りにくいキズに対して効果的です。第1種装置(1人用)あるいは第2種装置(多人数用)を用いて行います(図11)。
■高気圧酸素療法が適応となる4つの病態
治りにくいキズ(慢性潰瘍)において、高気圧酸素療法が適法となる病態を以下に示します。
- 重症虚血性潰瘍:血行再建が不可能あるいは非適応症例、Blue toe syndromeなど
- 感染を伴う創部:糖尿病性潰瘍、慢性骨髄炎、ガス壊疽など
- 浮腫を伴う病変:虚血再還流障害、低アルブミン血症、リンパ浮腫など
- 術後の後療法:植皮術部、局所/遊離皮弁部、一次縫合閉創部
■高気圧酸素療法の合併症・禁忌
患者が高気圧状態に曝される為、気胸、慢性閉塞性肺疾患、心肺機能障害を有する患者は絶対禁忌です。また、耳管閉塞、閉所恐怖症、正確な意思疎通が困難な患者は相対禁忌です。合併症として頻度は少ないですが、中枢神経性の酸素中毒が報告されています。
■高気圧酸素療法の実際
日本高気圧環境・潜水医学会は効果や安全性の観点から、第1種治療装置(1人用)では2ATA(気圧)、100%酸素、15分加圧、60分保圧、15分減圧の治療テーブルを推奨しています。治療1クールは5〜10回に設定する場合が多く。設定加圧や減圧のスピードに関しては、適宜、患者の状態を見ながら調整していきます(図12)。
■我々、外科医ならこう使う!
高気圧酸素療法は手術前後の創傷管理にも有用です。術前に使用する場合は、キズ表面の管理に加えて、縫合を行った場合の創縁の癒合にも効果的です(図13)。
術後に使用する場合は、血流や酸素化が不十分で微小循環不全に陥り、生着するか壊死するか不安定な組織をできるだけ救済する目的で使用します(図14)。
■Part.3のまとめ
- 高気圧酸素療法はキズの回復をサポートするのに有効である。
- 高気圧酸素療法は幅広い病態に適応がある。
- 高気圧酸素療法は、キズを専門とする医療の現場でも、重宝している。