治りにくいキズを確実に治すための奥の手 Part.1
〜キズが治る過程と治らない原因〜

■キズが治る過程

一般的に、キズの治癒過程は、①出血凝固期、②炎症期、③増殖期、④成熟期の4期に分類されます。

① 出血凝固期

皮膚にダメージが生じると、出血が起こり、凝固因子と血小板により止血されて凝固塊になった血液がキズを閉鎖します(かさぶた)。そして、血小板から血小板由来増殖因子(platelet derived growth factor:PDGF)などの成長因子やサイトカインが放出され、次の創傷治癒機転に必要な物質を呼び込みます。

美容医療の世界では、アンチエイジングの目的でP R P(多血小板血漿)治療というものがあります。PRP治療とは、濃縮した血小板を皮下や関節に注射する治療で、この原理は、血小板がトリガーとなり線維芽細胞などを呼び込むことで、組織を若返らせます。つまり、創傷治癒の原理を応用したアンチエイジングと言えます。

② 炎症期

次に炎症性細胞が働き、これらの因子により、好中球やマクロファージなどにより、壊死組織を貪食したり、感染を抑えることで、キズを清浄化します。

同時に、これらの細胞から連鎖的にTransforming Growth Factor-β(TGF-β)やFibloblast Growth Factor(FGF)などの増殖因子やサイトカインが放出されます。キズが赤くなるのは時期からです。

③ 増殖期

キズの清浄化が進むと、増殖期に移行します。炎症期で放出された因子が、線維芽細胞やケラチノサイト(表皮細胞)を呼び込み、増殖させます。さらに、細胞に酸素や栄養素を届けるために、血管新生が起こります。

その結果、キズの組織欠損を充填し、そこを足場として、ケラチノサイト(表皮細胞)で覆われることで、皮膚がはって、キズが縮小していきます。

④ 成熟期

キズが閉鎖した後に、活発だった細胞組織の活動が落ち着き、瘢痕が形成されていきます。細胞外マトリックス(コラーゲンなど)のリモデリングなどの働きによって、赤みを帯びていた瘢痕が数ヶ月かけて白く柔らかくなり、成熟していきます。

■なぜ傷がスムーズに治らないのか

キズには、急性創傷と慢性創傷の2種類があります。

急性創傷とは上述した創傷治癒の過程がスムーズに進むキズを“急性創傷”と呼びます。一方で、この過程のいずれかが障害され、なかなか治らないキズを“慢性潰瘍”と呼びます。特に炎症期と増殖期が正常に働かないケースが多いです。

■キズを確実に治すためのT I M E理論とは

分子や細胞レベルでキズの治りが障害される原因は、Schultzらが提唱したTIME理論の4項目で表現されます。

  • 壊死組織・組織の異常(T:tissue non-viable or deficient)
  • 感染・炎症(I:infection or inflammation)
  • 湿潤環境のアンバラン(M:moisture imbalance)
  • 創辺縁からの上皮形成の遅延または潜蝕化(E:edge of wound-non advancing or undermined epidermal margin)

これら4項目にそれぞれ適切に対処することが、キズを確実に綺麗に治すことにつながります。

■Part.1のまとめ

  • キズの治癒過程は、①出血凝固期、②炎症期、③増殖期、④成熟期の4期に分類される。
  • キズが治る過程のいずれかが障害され、治りにくいキズを“慢性潰瘍”と呼ぶ。
  • キズを確実に治すためには、T I M E理論に準じたキズの管理が有効である。

Part.2へ続く

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