■治りにくいキズを確実に治すための補助療法とは
治りにくいキズとは、Part.1でご説明した“慢性創傷”のことです。これらのキズは通常の回復過程から逸脱しているため、一般的な治療が奏功しない場合があります。そのような時に、回復のサポートをする治療を“補助療法”と呼んでいます。
■さまざまな補助療法
補助療法の適応となる慢性創傷(治りにくいキズ)のケースは、従来の治療法でうまくいかなかったり、すでに重症化していたりする場合が多いです。そのため、身体の外側や内側からの総合的に治療する必要があります。以下に、代表的な補助療法を挙げ、「作用機序」「効果効用」「必要資源」「治療費用」の4つの視点から説明します。
1)高気圧酸素療法(Hyperbaric Oxygen Therapy:HBOT):図5
作用機序:大気圧よりも高気圧環境下で高濃度酸素を吸入することにより、血行障害に陥った組織に大量の溶解型酸素を供給し、虚血性病変の酸欠状態を改善します。
効果効用:低酸素状態の改善、血管新生、線維芽細胞の増殖、制菌作用、浮腫の改善などです。
必要資源:第1種装置(1人用)あるいは第2種装置(多人数用)、耐火・消火設備などの建物整備、臨床工学技士、HBOTに精通した医師
治療費用:診療報酬点数3,000点/日(一連につき30回を限度)
2)マゴットセラピー(Maggot Debridement Therapy:MDT):図6
作用機序:複数の蛋白分解酵素を含んだ分泌物(Excretion/Secretion:ES)により壊死組織を融解しながら貪食します。E Sの肉芽増生や血管新生作用に加え、含有するセリンプロテアーゼにより細胞の遊走や細胞外マトリックスの構築を促進させるます。マゴットの直接的な貪食と抗菌ペプチドの分泌による抗菌作用を持ちます。
効果効用:選択的デブリードマン、肉芽増生作用、抗菌作用、血管新生など
必要資源:医療用マゴット、通気性の良いドレッシング材、倫理委員会の承認(病院の場合)
治療費用:自由診療、原価は約20,000円〜/回(メーカーによっては定額制度有り)
3)多血小板血漿療法(Platelet-Rich Plasma:PRP):図7
作用機序:血小板を濃縮させた血漿に、血小板凝集反応を起こさせ、活性化させることによりα顆粒から多量の成長因子(EGF、VEGF、PDGF、TGF-βなど)や細胞接着因子(ビトロネクチン、フィブロネクチン、vWFなど)を放出し、創環境のバランスを回復させます。
効果効用:血小板がトリガーとなる創傷治癒過程の正常化
必要資源:遠心分離器、再生医療等安全性確保法に適合する届出(第3種)、倫理委員会の承認(病院の場合)、各種キット(なくても作成可能)
治療費用:診療報酬点数4,190点/1クール(一連につき2クールを限度)、適応前の前提条件あり
EGF:epidermal growth factor
VEGF:vascular endothelial growth factor
PDGF:platelet derived growth factor)
TGF-β:transforming growth factor
vWF:von Willebrand factor
4)LDLアフェレシス(定比重リポ蛋白アフェレシス治療):図8
作用機序:体外循環を利用し、血中の過剰なLDLを大量に除去することで動脈硬化性病変の進行の抑制や改善を行います。その他にも、血液レオロジー(流動性)や凝固機能の改善など多様な機序を有します。
効果効用:微小循環障害の改善、血行再建後の早期閉塞予防、側副血行路の発達など
必要資源:透析装置、周辺機器、専用カラム、臨床工学技士、透析専門医
治療費用:診療報酬点数4,200点/日(一連につき3月間に限って10回を限度)
5)脊髄電気刺激療法(Spinal Cord Stimulation:SCS):図9
作用機序:求心線維の中枢枝を興奮させることで、末梢に向かって逆行性に刺激が伝わり、カルシトニン遺伝子関連ペプチドが放出されることで血管を拡張します。微小循環が改善すると虚血痛が和らぎ、間接的に交感神経の緊張が緩和されます。
効果効用:疼痛の改善、末梢の血管拡張作用、微小循環障害の改善など
必要資源:手術設備、脊髄刺激装置
治療費用:診療報酬点数24,200点(脊髄刺激電極を留置した場合)、16,100点(ジェネレーターを留置した場合)、適応前の前提条件あり。
6)その他の補助療法
上述した治療法以外に、形成外科ガイドラインにおけるグレードC1(根拠はないが、行うように勧められる)以上の補助療法として、超音波療法、電気刺激療法、間欠的空気圧迫法、陰圧閉鎖療法(別項で詳記)、局所酸素療法、血管再生治療などが挙げられます。
■補助療法のポジショニング
上述したように、補助療法には原始的なものから最先端の細胞治療まで、様々なものがあります。一方で、エビデンスレベルの高い報告は少ないので、設備や専門家の設置などの参入障壁があり、実際に臨床応用するにあたり難しい側面も多いのが現状です。図10に各補助療法のポジショニングを示します。
効果の汎用性(どのぐらい幅広い病態に対して効果を発揮するか)に関しては、高気圧酸素療法とマゴットセラピーが、頭ひとつ抜けています。
■Part.2のまとめ
- 治りにくいキズの回復のサポートをする治療を“補助療法”と呼ぶ。
- さまざまな補助療法があり、それぞれが一長一短なので、施設の設備や患者の希望に合わせて柔軟に選択する。
- 高気圧酸素療法とマゴットセラピーは効果の汎用性が高い。
Part.3へ続く。