(1)肌の水分量に関する男女の違い
■ “肌の水分量”とは“角質層の水分量(角質水分量)”を指している
一般的に、肌の“水分量”や“潤い”とは皮膚表面の“角質層の水分量”のことを指しており、角質水分量と呼ばれています。健康な肌では、角質層の重量あたり約20〜30%の水分が含まれています。一方、私たち人間の身体の水分量は、胎児で体重の約90%、新生児で約75%、子供で約70%、成人で約60〜65%、老人で50〜55%であることを考えると、皮膚の角質層は極めて乾した環境に置かれていると言えます。これは、周囲の乾燥から、生体内の水分喪失を制御している為です。角質層の深部は生体内と同等の水分が含まれているますが、表層に向かうに従い徐々に減少し、結果的に20〜30%になります。
■皮膚の角質層とは
顔の皮膚は主に表皮と真皮で構成されており、体外の環境に対する重要なバリア機能を担っているのが表皮です。表皮は厚さが約0.1~0.2mmであり、物理的なバリア機能だけでなく、体外から侵入する微生物などに対してランゲルハンス細胞に制御された免疫学的バリア機能も有しています。そして、表皮は外層から、角質層、顆粒層、有棘層、基底層の4層に分けられます。基底層で分裂した細胞が下層から上層(外側)へ向かって移動しながら角質層の細胞に分化することを“角化”と言い、顆粒層〜有棘層〜基底層はそれらの働きを担っています。そして、スキンケアで最も重要なのは最外層の角質層です。
角質層では、角質細胞が数層以上にびっしりと重なっており、その隙間を角質細胞間脂質という物質が埋めています。角質細胞間脂質の主成分は、セラミドが約46%、遊離コレステロールが約26%、遊離脂肪酸が約13%、コレステロール硫酸が約4%と報告されていています。そして、これらの脂質は、疎水性領域(水と親和性が悪い部分)と親水性領域(水と親和性が良い部分)で二重構造を形成しています。すなわち、角質細胞による水分保持に加えて、角質細胞間脂質の2重構造による保湿の2つの機序が、肌への潤いとバリア機能を与えています。
■角質水分量の測定方法
一般的に、角層水分量の測定は皮膚の上から電気的性質や光学的性質を応用して行われることが多いです。電気的性質を応用した代表例として、電気の伝道度を利用した角層水分量の測定法があり、電気伝導度が高ければ水分量が多いと判定されます。これは、水の誘電率(電気をためる能力)が他の物質に対して突出して高い性質を利用しています。この方法は皮膚にダメージを与えずに測定が可能である為、多くの臨床の場面や化粧品の評価や実証で広く活用されています。下記のセッションでお示しする臨床研究の多くが、この手法を利用しています。また、光学的性質を応用した代表例として、近赤外光スペクトルを利用した測定法があります。これは、非接触型で広い範囲の皮膚の水分量を計測することができ、近赤外光の波長域(780~2500 nm)の吸収、反射、発光に基づいて水分子を測定しています。この方法は、水分の絶対量の測定だけでなく、水分子の存在状態の情報(偏在など)が得られます。
■男女の皮膚の角質水分量の違い
同じアジア人である中国人168名(男性84名、女性84名)を対象として、日光の暴露と角質水分量の関係を評価する臨床試験が2012年に行われました。その結果、若い男女の場合、肌の角質水分量は日光の暴露により、有意な影響を受けることはありませんでした。しかし一方で、高齢の女性では男性に比べて、日光の暴露時間が長いほど有意に角質水分量が下がっていました。さらに、2013年には、ドイツでLuebberdingの300名(20-74歳)を対象とした臨床研究では、若い男性が女性と比較してより高いレベルの保湿力があるとする一方で、男性は40歳を過ぎてから保湿力が徐々に減少する傾向にあると報告しています。2009年には、Manらの713名(0.5-94歳)を対象とした臨床研究では、70歳以上の男女の前額部(おでこ)の保湿力は若年者と比較して減少しているが、男女で有意な差は認めなかったと報告しています。さらに、1990年のRogiersらも、男女間で保湿力に差は認めないと報告しています。また、2006年にフランスのMac-Maryらは、80人の被験者(女性44名、男性36名、平均年齢56歳)を対象として、前腕の皮膚を用いて、天然のミネラルウォーターの摂取が男女共の皮膚の乾燥にどのように影響を与えるかを評価しました。天然のミネラルウォーターが角質水分量を補助的に改善させる可能性があるとする一方で、男女差を認めませんでした。
しかし、2014年のLiらが86名(男性43名、女性43名)を対象として行った単一施設、非介入臨床試験で、被検者を夏と冬のそれぞれの時期に検査すると、女性の方が男性よりも保湿力が高いという結果でした。
日本人を対象とした臨床研究ではどうでしょうか。水越らにより、男性45名(20〜50歳代の各年代約10名)、女性72名(20〜50歳代の各年代18名)を対象とした臨床研究が行われました。対象部位は、額、鼻、頬、顎及び上腕内側であり、いずれの部位においても男性の角質水分量と年齢との相関関係は認めませんでした。一方で、男性の頬部の肌の角質水分量は少なく、同時期(11月)に測定した女性に比べて約1/3であったと報告しています。
■まとめ
このように各研究により結果が異なります。これは、研究デザイン、測定装置、サンプルサイズ、測定場所、環境条件、および被験者の遺伝的背景の違いが原因です。その為、全員に当てはまるような確実なことは言えません。しかし、男女差の傾向として、以下のようなことが言えそうです。
- 若年者の場合、肌の水分量(角質水分量)に男女差はない。
- 高齢女性は男性に比べて肌の水分量が低下する。
- 中年以降は、加齢に伴い肌の水分量が男女ともに減少する。