■皮膚の表面摩擦力とは
皮膚の特性の中でも、表面摩擦力に関する研究は、他の特性(水分量、pH、弾力性など)に比べると、論じられる機会が少ない分野です。
皮膚摩擦係数とは、皮膚上の物体の動きに対する表面摩擦力(抵抗力)を意味しています。そして、動かす力をF、物体重量をN、摩擦係数をμとすると、
F=μN で表されます。
すなわち、
摩擦係数が大きい→抵抗が大きくて、ズレにくい。
摩擦係数が小さい→抵抗が小さくて、スベりやすい。
と解釈することができます。
■肌の表面摩擦力に関する大規模な臨床研究
私が調べる限り、肌の表面摩擦力に関する最も大規模な臨床試験は、Zahuら(2011年)により中国人633名(男性300名、女性333名)を対象としたものでした。測定部位は、おでこ、目の周り、手背の3箇所です。
測定器は、Courage-Khazaka Frictiometer FR770(図1)とCorneometer CM 825 (C&K MPA5)を用いて、皮膚の摩擦力と角質水分量を測定しています。
1)身体の部位別の表面摩擦力の加齢性変化と男女差
女性の場合、目の周りと手背では、40代まで徐々に増加し、その後に減少する傾向がありました。一方で、おでこは加齢と共に徐々に増加しました(図2)。
対照的に、男性の場合は、おでこと目の周りの表面摩擦力は、加齢に伴う大きな変化はありませんでした。しかし、手背は40歳までに上昇し、その後は横ばいでした(図3)。
※Y.H.Zhu, et al. Skin Pharmacol Physiol. 2011 Jan; 24(2): 81–86から引用
2)各部位の年齢別の特徴
女性の場合、11-40歳までは手背の数値が前額部(おでこ)よりも高く、同様に20-50歳では目の周りが前額部(おでこ)よりも高い結果となりました(有意差あり)。
一方、男性の場合は、51-60歳で手背がその他の2部位に比べて高かったことを除けば、他に有意差のある結果は得られませんでした(図2.3)。
3)皮膚の表面摩擦力に関する男女差
前額部(おでこ)に関して、男女差は認めませんでした。一方で、目の周りに関しては、31-40歳と51-60歳において、有意に女性の方が高い結果でした。また、手背に関しては、0-10歳では男性の方が高く、21-30歳では女性の方が高いという結果でした(図4)。
※Y.H.Zhu, et al. Skin Pharmacol Physiol. 2011 Jan; 24(2): 81–86から引用
すなわち、肌の表面摩擦力は、年齢だけでなく、性別にも影響を受けると言えます。
Part 2へ続く。